美容医療の分野で近年注目を集めている糸リフト(スレッドリフト)。メスを使わずに手軽にたるみやほうれい線を改善できるとして人気を博していますが、一方で「失敗した」「効果がない」といった口コミも目立ちます。
実際に糸リフトは失敗が多い施術なのでしょうか。また、効果がないと言われる理由は何なのでしょうか。この記事では、糸リフトの現実について詳しく解説し、失敗を避けるためのポイントをお伝えします。
糸リフトとは何か?基本的な仕組みを理解する
糸リフトの基本メカニズム
糸リフトは、医療用の特殊な糸を皮下組織に挿入し、物理的にたるみを引き上げる施術です。PDO(ポリジオキサノン)、PLA(ポリ乳酸)、PCL(ポリカプロラクトン)といった生体内で吸収される安全な素材の糸が使用されます。
これらの糸には「コグ」と呼ばれる棘状の突起が付いており、皮下組織に引っかかることで引き上げ効果を発揮します。糸が溶ける過程でコラーゲンの生成も促進され、肌質改善効果も期待できるとされています。
代表的な糸リフト製品の種類
現在市場には多くの糸リフト製品が存在しており、以下のような実在する製品が使用されています:
製品名 | 素材 | 特徴 | 持続期間 |
---|---|---|---|
テスリフト | PDO | 3Dメッシュ構造 | 2-3年 |
ミントリフト | PDO | 360度コグ付き | 1-2年 |
シルエットソフト | PLLA | 円錐状コーン | 2-3年 |
VOVリフト | PCL | 高い柔軟性 | 2-3年 |
糸リフトの「失敗」とは具体的に何なのか
よくある失敗パターン
糸リフトで報告される「失敗」には、以下のような具体的な症状があります:
1. 肌の凹凸や不自然な引きつれ
糸の挿入角度や深さが適切でない場合、肌表面に凹凸ができたり、不自然な引きつれが生じることがあります。特に皮膚の薄い部分で起こりやすく、1か月以上経過しても改善しない場合は失敗の可能性が高いとされています。
2. 糸が透けて見える
糸を埋める深さを誤ると、糸が肌から透けて見えることがあります。これは施術者の技術不足が主な原因とされ、非常に稀な事例ですが、一度起こると修正が困難です。
3. 表情の不自然さ
過度に引き上げすぎた場合、笑えなくなったり表情が不自然になることがあります。ダウンタイムの一時的な症状の場合もありますが、1か月以上続く場合は失敗と考えられます。
4. 期待していた効果が得られない
リフトアップ効果が全く感じられない、または期待していたほどの変化がない場合も、患者にとっては「失敗」と感じられます。
失敗が起こる主な原因
糸リフトの失敗には以下のような原因があります:
施術者の技術・経験不足
糸リフトは「誰でも簡単にできる」と謳われることがありますが、実際には高度な技術と豊富な経験が必要です。美容外科を専門としない医師や、症例数の少ない医師による施術では失敗のリスクが高まります。
適応判断の誤り
患者の皮膚状態や骨格を適切に評価せずに施術を行うと、思うような効果が得られなかったり、不自然な仕上がりになることがあります。
カウンセリング不足
患者の希望と実際に得られる効果のギャップを十分に説明せず、過度な期待を抱かせることで、結果的に「失敗」と感じられるケースもあります。
糸リフトで「効果がない」と言われる理由
効果の限界を理解していない
糸リフトには明確な適応範囲と限界があります。以下のような場合、十分な効果が得られない可能性があります:
皮下脂肪の量が適切でない場合
皮下脂肪が多すぎると糸で引き上げるには力が足りず、逆に少なすぎると引っかかる組織がないため、いずれも効果が限定的になります。適度な皮下脂肪量がある方に最も効果的とされています。
重度のたるみがある場合
進行したたるみや深いシワには、糸リフトだけでは改善が困難です。このような場合は切開リフトなど、より強力な治療が必要になります。
若すぎる年齢での施術
20代前半など、まだたるみが軽微な年代では、糸リフトを受けても劇的な変化は感じられません。予防効果はあるものの、即効性のある変化を期待すると「効果がない」と感じる可能性があります。
持続期間に対する誤解
糸リフトの効果持続期間については、多くの誤解があります:
理論値と実際の持続期間の差
製品説明では「2-3年持続」とされていても、実際には個人差が大きく、皮下脂肪の多い方や元々のたるみが強い方では、数か月で効果が薄れることもあります。糸が体内に残存していても、引き上げる力(抗張強度)は徐々に低下するためです。
コストパフォーマンスの問題
数十万円をかけて糸リフトを受けても、1年程度で元に戻ってしまう場合、多くの患者が「効果がない」と感じます。長期的に見ると、定期的なメンテナンスが必要になるため、総コストは想像以上に高額になることがあります。
糸リフトが向いている人・向いていない人
糸リフトに適している人の特徴
糸リフトで良好な結果が期待できるのは以下のような方です:
- 軽度から中程度のたるみがある30-50代の方
- 皮下脂肪量が適度にある方
- ダウンタイムを短くしたい方
- 定期的なメンテナンスを受け入れられる方
- 自然な仕上がりを希望する方
糸リフトが向いていない人
以下のような方には糸リフトは適さない場合があります:
- 重度のたるみがある方
- 皮下脂肪が極端に多いまたは少ない方
- 劇的な変化を求める方
- 長期間の効果を期待する方
- 敏感肌で異物反応を起こしやすい方
糸リフトの種類別特徴と選び方
PDO(ポリジオキサノン)糸の特徴
最も一般的に使用される糸素材で、テスリフトやミントリフトなどで使用されています。
- 持続期間:6か月-1年
- 安全性が高い
- コラーゲン生成効果
- 価格が比較的安価
- 初心者に適している
PCL(ポリカプロラクトン)糸の特徴
VOVリフトプレミアムなどで使用される、柔軟性に優れた糸です。
- 持続期間:2-3年
- 高い柔軟性
- 自然な仕上がり
- 引きつれが起こりにくい
- 口元や目元に適している
PLA/PLLA(ポリ乳酸)糸の特徴
シルエットソフトなどで使用される、リフト力の強い糸です。
- 持続期間:1-2年
- 強力なリフト効果
- 硬さがある
- 深いたるみに効果的
- 引きつれのリスクが高い
失敗しないための重要なポイント
クリニック選びの基準
糸リフトで失敗しないためには、適切なクリニック選びが最も重要です:
医師の専門性と症例数
美容外科・美容皮膚科を専門とし、糸リフトの症例数が豊富な医師を選ぶことが重要です。単に医師免許を持っているだけでなく、専門的な研修を受けた医師かどうかを確認しましょう。
カウンセリングの質
適応の可否を適切に判断し、リスクやデメリットについても正直に説明してくれるクリニックを選びましょう。過度に効果を宣伝したり、リスクの説明を怠るクリニックは避けるべきです。
使用する糸の品質
FDA認可やCEマークを取得した高品質な糸を使用しているかを確認しましょう。安価で粗悪な糸を使用するクリニックでは、技術が良くてもトラブルが起こる可能性があります。
カウンセリングで確認すべきポイント
カウンセリング時には以下の点を必ず確認しましょう:
- 自分の症状に糸リフトが適しているか
- 使用する糸の種類と本数
- 期待できる効果と限界
- 持続期間の目安
- リスクと副作用
- アフターケアの内容
- 修正が必要になった場合の対応
糸リフトのリスクと副作用
一般的なリスクと対処法
糸リフトには以下のようなリスクがあることを理解しておく必要があります:
ダウンタイム中の症状
腫れ、内出血、痛み、違和感などは正常な反応で、通常1-2週間で改善します。この期間中は冷却や安静を心がけ、激しい運動や飲酒は控えましょう。
感染のリスク
極めて稀ですが、施術部位に感染が起こる可能性があります。施術後は清潔を保ち、異常を感じたらすぐに医師に相談することが重要です。
アレルギー反応
糸の素材に対するアレルギー反応が起こる可能性もあります。過去にアレルギー歴がある方は事前に医師に相談しましょう。
重篤な合併症
稀ではありますが、以下のような重篤な合併症も報告されています:
- 神経損傷による顔面麻痺
- 血管損傷による壊死
- 糸の移動や露出
- 慢性的な痛みや違和感
これらのリスクを最小限に抑えるためには、経験豊富な医師による施術を受けることが不可欠です。
糸リフトの代替治療法
より確実な効果を求める場合
糸リフトで十分な効果が期待できない場合、以下の治療法も検討できます:
切開リフト(フェイスリフト)
重度のたるみには最も効果的で、5-10年の長期間効果が持続します。ただし、ダウンタイムが長く、傷跡が残るリスクがあります。
HIFU(ハイフ)
超音波によるたるみ治療で、糸リフトより自然で副作用が少ないとされています。効果は糸リフトより控えめですが、安全性が高いのが特徴です。
ヒアルロン酸注入
ボリュームロスが原因のたるみには、ヒアルロン酸注入が効果的です。即効性があり、失敗のリスクも低いのが利点です。
組み合わせ治療の考え方
糸リフト単独では限界がある場合、他の治療との組み合わせで効果を高めることができます:
- 糸リフト + ヒアルロン酸注入
- 糸リフト + HIFU
- 糸リフト + 脂肪吸引
- 糸リフト + ボトックス
糸リフト後のアフターケアと長持ちさせる方法
施術直後のケア
糸リフトの効果を最大化し、合併症を防ぐためには適切なアフターケアが重要です:
施術当日-3日間
患部の冷却、安静、洗顔時の注意、メイクは翌日から軽めに、アルコール・喫煙・激しい運動は控える
1週間-1か月
マッサージは避ける、大きく口を開ける動作を控える、うつぶせ寝を避ける、定期的な経過観察を受ける
効果を長持ちさせるコツ
糸リフトの効果をできるだけ長く維持するためには:
- 適切なスキンケアの継続
- 紫外線対策の徹底
- バランスの良い食事と十分な睡眠
- 禁煙・節酒
- 定期的なメンテナンス治療
- 急激な体重変化を避ける
糸リフトの費用対効果を考える
コストの内訳と相場
糸リフトの費用は使用する糸の種類や本数によって大きく異なります:
糸の種類 | 1本あたりの相場 | 推奨本数 | 総費用目安 |
---|---|---|---|
PDO糸 | 3-5万円 | 4-8本 | 12-40万円 |
PCL糸 | 5-8万円 | 4-6本 | 20-48万円 |
PLA糸 | 4-6万円 | 4-6本 | 16-36万円 |
長期的なコストを考慮する
糸リフトは継続治療が前提のため、長期的なコストを考慮する必要があります:
5年間のトータルコスト例
PDO糸を2年に1回施術する場合:30万円 × 3回 = 90万円
PCL糸を3年に1回施術する場合:40万円 × 2回 = 80万円
このように、長期的に見ると切開リフト(80-150万円、10年持続)と大きな差がない場合もあります。
糸リフトに関するよくある誤解
「手軽で簡単」という誤解
糸リフトは「切らない美容整形」として「手軽で簡単」というイメージで宣伝されることが多いですが、実際には以下のような点を理解しておく必要があります:
- 適応を誤ると効果が得られない
- 技術力によって結果が大きく左右される
- リスクや副作用は存在する
- 一度の施術で永続的な効果は期待できない
- 定期的なメンテナンスが必要
「全ての人に効果がある」という誤解
糸リフトには明確な適応と限界があり、全ての人に効果があるわけではありません。特に以下のような場合は慎重な検討が必要です:
- 20代前半の予防目的
- 60代以降の重度のたるみ
- 皮下脂肪が極端に多いまたは少ない
- 金属アレルギーがある
- 過度な期待を持っている
まとめ:糸リフトとの賢い付き合い方
糸リフトは適切に行えば、安全で効果的な美容治療です。しかし、「失敗が多い」「効果がない」と言われるのには明確な理由があります。
失敗を避けるためのポイント:
- 経験豊富な専門医による施術を受ける
- 自分に適した治療かを慎重に判断する
- 効果と限界を正しく理解する
- 長期的なコストを考慮する
- リスクを十分に理解した上で決断する
効果を最大化するために:
- 適切なカウンセリングを受ける
- 質の高い糸を使用するクリニックを選ぶ
- 術後のアフターケアを徹底する
- 定期的なメンテナンスを検討する
- 他の治療との組み合わせも視野に入れる
糸リフトは万能な治療ではありませんが、適切な条件下で行えば満足のいく結果を得ることができます。重要なのは、過度な期待を持たず、現実的な目標設定を行うことです。
美容医療は一生涯にわたる投資です。一時的な流行に惑わされることなく、自分にとって最適な治療法を見つけることが、長期的な満足につながるでしょう。
糸リフトを検討している方は、必ず複数のクリニックでカウンセリングを受け、納得のいく説明を受けてから決断することをお勧めします。そして、どのような治療を選択するにしても、信頼できる医師との長期的な関係を築くことが、美容医療を成功させる鍵となります。