バターチキンカレーは、北インドのパンジャブ地方で生まれた料理で、正式名称は「ムルグ・マッカーニー」といいます。1950年代にデリーの老舗レストラン「モティ・マハル」で誕生したとされています。タンドリーチキンの残りを無駄にしないようにと、トマトベースの濃厚なグレイビーソースに絡めたのが始まりだったそうです。
このカレーの最大の特徴は、トマトの酸味と生クリーム・バターのまろやかさが絶妙に調和した、優しい甘さです。スパイスは控えめで、辛さもほとんどないため、子供から大人まで幅広い世代に愛されています。日本のインドカレー店でも定番メニューとして人気が高く、ナンやライスとの相性も抜群です。
本格的な味わいを実現するための材料選び
鶏肉の選び方
バターチキンカレーに使う鶏肉は、もも肉がベストです。むね肉でも作れますが、もも肉の方がジューシーで柔らかく仕上がります。皮は取り除き、一口大(約3cm角)にカットします。大きすぎると味が染み込みにくく、小さすぎると煮崩れしやすいので注意しましょう。
マリネ用の材料
鶏肉をマリネすることで、肉が柔らかくなり、スパイスの風味が内部まで浸透します。必要な材料は以下の通りです。
材料名 | 分量(4人分) | 役割 |
---|---|---|
プレーンヨーグルト | 200g | 肉を柔らかくする |
にんにくペースト | 大さじ1 | 香りづけ |
生姜ペースト | 大さじ1 | 臭み消し・香りづけ |
レモン汁 | 大さじ1 | 肉を柔らかくする |
ターメリックパウダー | 小さじ1/2 | 色付け・風味 |
レッドチリパウダー | 小さじ1/2 | 辛味(調整可) |
ガラムマサラ | 小さじ1 | 香り付け |
塩 | 小さじ1 | 下味 |
グレイビーソースの材料
バターチキンカレーの美味しさの決め手となるグレイビーソース。以下の材料を準備します。
材料名 | 分量(4人分) | ポイント |
---|---|---|
バター | 60g | 無塩バターがおすすめ |
玉ねぎ | 中2個 | みじん切りにする |
トマト缶(ホール) | 400g | 完熟トマトでも可 |
カシューナッツ | 50g | 水に30分浸しておく |
生クリーム | 200ml | 乳脂肪35%以上推奨 |
砂糖 | 大さじ2 | 甘さの決め手 |
はちみつ | 大さじ1 | コクを出す |
下準備から仕込みまで
鶏肉のマリネ工程
まず、鶏もも肉を一口大にカットし、キッチンペーパーで余分な水分を拭き取ります。ボウルにヨーグルト、にんにくペースト、生姜ペースト、レモン汁、各種スパイス、塩を入れてよく混ぜ合わせます。このマリネ液に鶏肉を加えて、全体にしっかりと絡ませます。
ラップをかけて冷蔵庫で最低30分、できれば2時間以上寝かせます。一晩寝かせるとさらに味が染み込んで美味しくなりますが、長すぎるとヨーグルトの酸で肉が固くなることもあるので、24時間以内に調理するのがベストです。
カシューナッツペーストの準備
カシューナッツは水に30分ほど浸して柔らかくしておきます。これをミキサーに入れ、浸け水を少し加えながら滑らかなペースト状になるまで撹拌します。このカシューナッツペーストが、バターチキンカレー特有のクリーミーな食感とコクを生み出します。
アーモンドで代用することも可能ですが、カシューナッツの方がよりマイルドで上品な仕上がりになります。ナッツアレルギーの方は、代わりに生クリームの量を増やすか、ココナッツミルクを使用することもできます。
調理工程
鶏肉を焼く
フライパンに油大さじ2を熱し、マリネした鶏肉を並べます。このとき、マリネ液は取っておいて後で使います。中火で両面に焼き色がつくまで焼きます。完全に火を通す必要はなく、表面が香ばしく焼ければOKです。焼いた鶏肉は一旦取り出しておきます。
本場のレストランではタンドール窯で焼きますが、家庭では普通のフライパンで十分です。オーブンを使って200度で15分ほど焼いても、より本格的な仕上がりになります。
グレイビーソースのベース作り
同じフライパンにバター30gを溶かし、みじん切りにした玉ねぎを加えます。玉ねぎが飴色になるまでじっくりと炒めることが、深い味わいの秘訣です。中火で15-20分かけて、焦がさないように時々かき混ぜながら炒めます。
玉ねぎが飴色になったら、にんにくと生姜のペースト各大さじ1を加えて1分ほど炒めます。香りが立ってきたら、トマト缶を加えます。トマトはヘラで潰しながら、水分が飛んでペースト状になるまで10分ほど煮詰めます。
スパイスを加える
火を弱火にして、以下のスパイスを加えます。
スパイス名 | 分量 | タイミング |
---|---|---|
コリアンダーパウダー | 大さじ1 | 最初に |
クミンパウダー | 小さじ1 | 最初に |
ターメリックパウダー | 小さじ1/2 | 最初に |
レッドチリパウダー | 小さじ1/2 | 最初に |
ガラムマサラ | 小さじ1 | 最後に |
スパイスを加えたら、焦げないように注意しながら1分ほど炒めます。スパイスの香りが立ってきたら、水200mlを加えて5分ほど煮込みます。
ペーストを作る
火を止めて粗熱を取ったら、フライパンの中身をミキサーに移します。準備しておいたカシューナッツペーストも加えて、滑らかになるまでしっかりと撹拌します。ザラザラ感が残らないよう、必要に応じて少量の水を加えながら調整します。
このペーストをフライパンに戻し、中火にかけます。取っておいたマリネ液も加えて混ぜ合わせます。
仕上げの工程
鶏肉を戻して煮込む
ペーストが温まったら、焼いておいた鶏肉を戻し入れます。弱火で10-15分ほど煮込み、鶏肉に完全に火を通します。途中で水分が少なくなったら、水を少しずつ加えて調整します。理想的な濃度は、スプーンですくってゆっくりと落ちる程度です。
クリーミーに仕上げる
生クリーム200mlを少しずつ加えながら混ぜ込みます。一度に入れると分離する可能性があるので、必ず少量ずつ加えてください。全体がきれいなオレンジ色になったら、砂糖大さじ2とはちみつ大さじ1を加えます。
塩で味を調整し、最後にガラムマサラ小さじ1を振り入れます。残りのバター30gも加えて、艶やかに仕上げます。バターは最後に加えることで、風味が飛ばずに香りよく仕上がります。
カスリメティの使い方
本格的な仕上げには、カスリメティ(乾燥フェヌグリークの葉)を使います。手のひらで軽く揉んで香りを出してから、大さじ1程度を加えます。独特の甘い香りが加わり、プロの味に近づきます。
盛り付けとサービング
美しい盛り付けのコツ
バターチキンカレーは、その美しいオレンジ色を活かした盛り付けが大切です。白い器に盛ると色が映えて美しく見えます。中央にカレーを盛り、上から生クリームを円を描くように垂らし、つまようじで模様を作ると見た目も華やかになります。
仕上げに刻んだコリアンダーの葉を散らし、お好みでバターを一片のせます。カスリメティを少量トッピングしても良いでしょう。
おすすめの付け合わせ
バターチキンカレーには、以下の付け合わせがよく合います。
ナンは定番の組み合わせです。プレーンナンはもちろん、ガーリックナンやチーズナンとも相性抜群です。バスマティライスやジャスミンライスなど、香りの良いお米もおすすめです。日本の白米でも美味しくいただけます。
サイドディッシュとして、タンドリーチキンやシークカバブなどのグリル料理、アチャール(インドのピクルス)、ライタ(ヨーグルトサラダ)などを添えると、より本格的な食卓になります。
アレンジレシピとバリエーション
辛さの調整方法
基本のレシピは甘口ですが、お好みで辛さを調整できます。辛くしたい場合は、レッドチリパウダーを増やすか、青唐辛子のみじん切りを加えます。辛さは後から足すことはできても、減らすことは難しいので、少しずつ調整することが大切です。
子供向けにさらに甘くしたい場合は、砂糖やはちみつの量を増やし、スパイスの量を半分程度に減らします。ケチャップを少量加えると、子供が親しみやすい味になります。
ヘルシーアレンジ
カロリーを抑えたい場合は、以下のような置き換えが可能です。
生クリームの代わりに低脂肪ヨーグルトや豆乳を使用できます。ただし、酸味が強くなったり分離しやすくなったりするので、火加減に注意が必要です。バターも半量に減らし、代わりにギー(澄ましバター)を使うとヘルシーになります。
鶏肉の代わりに、パニール(インドのチーズ)、豆腐、きのこ類を使ったベジタリアンバージョンも美味しいです。特にパニールは本場でも人気の組み合わせです。
時短レシピ
忙しい時のために、時短で作る方法もあります。市販のタンドリーチキンペーストを使ってマリネ時間を短縮したり、トマトピューレを使って煮込み時間を減らしたりできます。カシューナッツペーストの代わりに、市販のアーモンドパウダーを使うのも一つの方法です。
圧力鍋を使えば、煮込み時間を大幅に短縮できます。すべての材料を入れて加圧5分、自然減圧すれば完成です。
保存方法と温め直しのコツ
冷蔵・冷凍保存
バターチキンカレーは作り置きにも適しています。冷蔵保存の場合は、密閉容器に入れて3-4日間保存可能です。冷凍する場合は、1食分ずつ小分けにして冷凍用保存袋に入れ、空気を抜いて保存します。1ヶ月程度は美味しく食べられます。
ただし、生クリームが入っているため、解凍時に分離することがあります。これを防ぐには、生クリームを入れる前の段階で冷凍し、温め直してから生クリームを加える方法がおすすめです。
温め直しの方法
冷蔵保存したものは、鍋に移して弱火でゆっくりと温めます。分離を防ぐため、必ず弱火で、時々かき混ぜながら温めてください。水分が飛んでいる場合は、少量の水か牛乳を加えて濃度を調整します。
電子レンジで温める場合は、途中で2-3回取り出してかき混ぜ、均一に温まるようにします。最後に少量のバターを加えると、作りたての風味が戻ります。
よくある失敗と対処法
分離してしまった場合
生クリームやヨーグルトが分離してしまうのは、よくある失敗です。原因は主に急激な温度変化や、酸味の強い材料との反応です。分離してしまった場合は、火を止めて少し冷まし、泡立て器でよく混ぜます。それでも改善しない場合は、少量のコーンスターチを水で溶いて加え、とろみをつけ直します。
味が薄い・物足りない場合
味が薄く感じる場合は、まず塩分を確認します。塩が足りないと全体の味がぼやけます。それでも物足りない場合は、ガラムマサラを少量追加するか、仕上げにバターを加えると味に深みが出ます。
トマトの酸味が強すぎる場合は、砂糖やはちみつを少しずつ加えて調整します。逆に甘すぎる場合は、レモン汁やヨーグルトを少量加えてバランスを取ります。
とろみがつかない場合
カレーにとろみがつかない原因は、水分が多すぎるか、カシューナッツペーストの量が少ないことが考えられます。煮詰めて水分を飛ばすか、カシューナッツペーストやコーンスターチでとろみを追加します。
バターチキンカレーをより楽しむために
食べ方のマナーとコツ
インドでは右手でナンをちぎり、カレーをすくって食べるのが伝統的な食べ方です。家庭では気軽にスプーンやフォークを使って構いませんが、ナンは手でちぎって食べるとより美味しく感じられます。
カレーとナンの比率は、カレー1に対してナン2くらいがバランスが良いとされています。最後にナンでお皿をきれいに拭うようにして食べきるのが、作り手への敬意を表す食べ方です。
ドリンクペアリング
バターチキンカレーには、ラッシー(ヨーグルトドリンク)が定番の組み合わせです。特にマンゴーラッシーは、カレーの後味をさっぱりとさせてくれます。アルコールなら、軽めのビールや、フルーティーな白ワインがよく合います。
食後にはチャイ(スパイスミルクティー)で締めくくると、本格的なインド料理の食事体験が完成します。
パーティーメニューとしての活用
バターチキンカレーは、見た目も華やかで万人受けする味なので、パーティーメニューとしても優秀です。大人数分を作る場合は、前日に下ごしらえをしておき、当日は温めて仕上げるだけにすると楽です。
ビュッフェスタイルで提供する場合は、保温鍋や電気鍋を使って温かい状態をキープします。ナンは食べる直前に温め直すと、より美味しくいただけます。
まとめ
インドカレー屋さんの甘いバターチキンカレーは、一見複雑そうに見えますが、ポイントを押さえれば家庭でも本格的な味を再現できます。鶏肉のマリネ、玉ねぎをじっくり炒めること、カシューナッツペーストでコクを出すこと、この3つが美味しさの秘訣です。
スパイスの配合や甘さは、お好みで調整しながら、自分だけのオリジナルレシピを作り上げていくのも楽しみの一つです。最初は基本のレシピ通りに作り、慣れてきたらアレンジを加えていくと良いでしょう。
何度か作るうちに、自然と手順も覚えて、より手際よく作れるようになります。家族や友人と一緒に、本格的なインドカレーを囲んで楽しい食事の時間を過ごしてください。きっと「お店で食べるより美味しい!」という声が聞けるはずです。